むらかみさんちのはるきくん

村上春樹の「1Q84」を読み終わりました。
ハードカバー3冊、文庫だと6冊という長編なのですが、実質3日ほどで読んでしまいました。


そして、いま、猛烈に、1Q84の話を、だれかとしたい。たまらなく語り合いたい。
こんな気持ちになるのは、とても珍しいことです。


わたしは、そこそこ本を読むほうだとおもいますが、読んだ本について
積極的になにかを語ることは、特に好むところではありません。
もちろん本を読み終わったあとには、あれこれ批評したり感想を述べたりしますが、
それはあくまで、ひとりで、誰にも向けずにこころの中ですることであって、
意見を外に出したいとおもうことはほとんどありません。
なので、読書メーターなるサイトも続けて書くことはできませんでした。
でも、わたしはこの小説について、誰かと話がしたいのです。猛烈に。なぜでしょう。


村上春樹の小説は、いままでに「風の歌を聴け」しか読み切っていません。
あとは、佐々木マキの絵が好きで、羊男の絵本や童話みたいなものを幾つか読んだだけです。
アンダーグラウンドは最初の数ページだけ、ほかは手つかず。
正直、苦手意識が強くて手を出しませんでした。


村上春樹の小説といえば、野菜しか食べない男女が、海の見えるアパートメントで、
ジャズをLPで聴きながら、ちょっとマニアックなセックスをして、
ワインを飲んでパスタを食べる。女はどこかに消えてしまう。男はぼんやりとしている。
「……っていったのは誰だったっけ?」「チェーホフだ」みたいなことをすぐ云う。
女はすべからく美人で、肌がすべすべしている。
そういう、意地の悪い固定観念のせいで、村上春樹は読めませんでした。


1Q84という小説を読み終わって、すごく不思議な気持ちでいます。
村上春樹は、おもっていた通りの村上春樹で、裏切られたような気持ちはありません。
村上春樹的な、あまりに村上春樹的な」とでもいいましょうか……(なんだそれ)
一冊しか読んできていないというのに、失礼な話です。


「上手」なのは間違いありません。
著者は、物語を作り上げていくことに敬意を払い、それを慈しみ、
ひとつひとつのことばを丁寧に繰ってそれを仕上げています。
柔らかい絹のような上質さがそこにあります。
ポテトチップを齧りながら読むようなことはしたくないとおもわせられるような、
真摯で、まじめにきちんと作られたものです。


物語が進んで、いくつかの不可思議な出来事に主人公たちは翻弄されます。
謎は深まりますが、やがて誰もが予めわかっていた終着地に着地します。
そして物語は終わります。謎は解かれません。
合点がいくこともなく、失われたものは失われたという結果しか残しません。
わからないことはわからないまま放り出されます。
でも、そこに「投げっぱなし」感はありません。
ただ必要なことしか描かれていない、という印象なのです。
でも、これは読み手の問題であって、投げっぱなしとおもうひともいるかもしれません。


そう。
ここに、わたしのおもう「不思議な気持ち」の大きなポイントがあります。
これは決して万人に受けるような類のものではないはずなのです。
なぜこの本が、何百万部というベストセラーになるのか。
売れたからどうこう、という話をしているわけではありません。
Amazonのレビューを見れば、買ってがっかり、読んでがっかりという多数の
意見を目の当たりにすることができます。
でも、Amazonにレビューを投稿するのは、ごくごく一部のひとたちです。
(そしてそのレビューの多くは、わたしの気分を害するものでした。)


もちろん、よくできた、とても上手な小説であることは間違いありません。
けれど、それに「村上春樹」というブランドを付けただけで、
この「5万部売れたらベストセラー」という今の出版業界で、300万部をも
売れてしまえるものなんでしょうか。うーむ、なぜだ。よくわからない。


そろそろ、ですます調に飽きてきました。


wikipediaで概要を読んで、へえなるほど、とおもったふしもあります。
そういう話だったのか、みたいな。
着目している場所がちょっと違ったようなところも、確かにありました。
でも、なんというか、根本的に、そういうことではなくて。


面白いか面白くないかでいえば、面白かったです。
三日間を投げ打った見返りは十分ありました。
図書館で借りてきて金銭的になにも投げ打っていないせいもあるかもしれません。
わたしは図書館で借りて、気に入った本は買うようにしていますが、
これは、買うかどうか、ものすごく迷う本です。
好きか好きじゃないかが、わからない。すごく好きな気もするし、嫌いな気もする。
なんだろう、もやもやする。ああ、わからない。気になる。
誰かと話したい! 意見を交換したい!!!


そんなわけで、どなたか是非読んでください。
そしてわたしと、1Q84について語っていただけませんか。